フレンチトーストの話

一人暮らしで2斤分の食パンを消費するのが難しい。

たまたま入った焼肉屋さんが10周年だかなんだかのお祝いで、来店客全員に食パン1本プレゼントをしていた。
貰った時は食費浮いてラッキー✌️くらいに思っていたのだが、食べやすいようにカットしている時に、これ全部食うのしんどくねーか? これから向こう1週間は毎晩パンとスープ生活になりそうだな……ってくらいプチ絶望する量だった。
ひとまず卵を使わねばならなかったのでハムと卵を焼いて食パンに乗せたものをコーンスープで流し込んだ(パンはめちゃくちゃ美味かった)。

明日はどうしようとTwitterのタイムラインを眺めていたところ、短大時代の友達が「フレンチトーストとか作んなよ」とツイートしていた。
バカめ、晩飯って言ってるだろ! そんな字面見たら作りたくなるじゃないか(しかも卵を使う!)。

ところで画面の前のあなたはフレンチトーストを作ったことはありますか?
意外と簡単で、なのに甘くて美味しくて幸せですよね。
私は甘いものを食べてる時めちゃくちゃ幸せなので最高な気持ちになります。

初めてフレンチトーストを作ったのは高校1年か2年くらいのとある日です。
朝起きたら、母と養父と二男が家にいませんでした。
弟(長男)が「ママがいない」と起こしてきた時な〜に言ってんだコイツ……と思いましたとも。
その頃はもう養父にも、そんな養父を選んだ母にも期待していなかった私は、(あ、置いてかれたんだな。マジであの人たち私と弟のこと家族って思ってないんだ)と朝っぱらから最悪な気分でした。
そりゃあ私もあのふたりから見たら気に食わないところがあるクソガキだったでしょう。
とはいえこちらだってクソ親と思う理由があったわけで(例えばどこかに出かける時は報告! がルールだったから、友達と遊びに出かけると言っただけで、金の無心なんてこれっぽっちもしていないのに、財布からお札を取り出して床に投げ捨てて「拾って持っていけ」、なんて言うところとか)。
弟だって成績が悪いくせに勉強をしないヤンチャ小僧だったが、中学の時分は門限を破ったり、親に隠れてヤニ吸ったりまではしていなかった頃だ。

「一般的な家庭」と比べると歪ながらも、お互い過干渉しなければ何とか一日を何事もなく過ごせる家だと自分では思っていた。

家に居ながら「俺たちママに捨てられたんだ」と泣きべそをかきそうな弟を見ながらため息を飲み込んで、ママが通帳を入れている棚を開き、通帳も印鑑も保険証もここにあるから捨てられた訳では無いこと、捨てるなら私と弟の方が家から出されること、最悪三重のばあちゃんとじいちゃんを頼ればいいだけであることを説明してやった。
それでも顔面蒼白で学校に行く気配がなかったので、朝ごはん作ってあげるから何食べたい? と聞いた時に言われたのがフレンチトーストだった。

まじか〜と思った。
そんなん、ママに作ってもらったことないのに今言う?
ていうかどこで知ったのそんなシャレたやつ。
つーか冷蔵庫の中のもの勝手に使ったら絶対怒られるじゃん。
なんてことを思いつつ、でも飯どころか何も言わずにどこかえ消えた母の言うことやルールって守る意味ある? と反抗心がむくむく。
気付いたら食パンと卵と砂糖とバターを取り出して朝から豪勢な朝ごはんをかましていた。
台所に立つと怒られるので調理実習と養父の会社でやるキャンプくらいでしか料理なんかしたことがなかったが、ガラケーiモードでネットに繋げてレシピを見て作ってやった。
砂糖じゃりじゃりだし、なんか上手く焼けなくてベチョってるところあったけど美味しかった。
弟も美味しいって言って食ってくれた。

食べながら、とりあえず今日一日の予定を確認した。
朝は弟の方が早く出るから、鍵は私が閉める。
帰りは、私は学校に黙って近所のスーパーのレジ打ちをしていたから、学校終わったらレジまで鍵を取りに来てもらうことにした。
晩ご飯はひとまず私のバイトで稼いだお金から惣菜を買って帰ることに。
今思えば、同じマンション内に中学時代の友達がいるんだから、その子の家に泣きつけばよかったなって思う。
ママが入院して養父が野菜炒めしか出してくれないって嘆いてたらおかず持ってきてくれた女神みたいな人。
なんか、出来るところまで、生きていけるところまでとりあえず待ってみようって思ったんですよね。
なんだかんだ母のこと好きだったので。

電話もメールも無視されたまま2日目。
弟も落ち着き、帰ってこないなら友達の家に泊まりに行っていいかな、なんて余裕かましつつ。
3日目にようやく帰ってきた彼らは、旅行を楽しんできたらしい。
なんで何も言わずに行ったのか尋ねたところ、言って家を出たらお前たち悪事を働くだろ? と。
信用ねぇな〜。悪事働くような人間に見えるんだ〜。仮に働いたとしてそうなっちゃったのって保護者の責任じゃねぇの?

な〜んて思ったり。

今にして思えばまだ可愛いもんだったな……と、3年生の夏休み明け初日に、卒業したら家を出て行けと急に言われ、A判定志望大学を泣く泣く諦め、ひとり再婚前に家族3人で住んでいたアパートに戻る羽目になったのを思い出しながら……。

結局、あの家の中でヘイトを稼いでいた私と、バカやって高校を退学になったついでに追い出された弟が居なくなったあと、虐げてもいい人間がいなくなった家では母と養父がいがみ合い、たった数年で離婚しましたとさ。
めでたしめでたし。

誰か一人を(うちの場合は連れ子だった私と弟)虐げて調和をとる関係、めちゃくちゃ嫌い。気色悪い。虫唾が走る。
物理的に距離を置いたら穏やかに接することが出来たので、家を出てしばらく、母には絶対老後の面倒なんか見ないし、頼まれたら事故を装って殺すから今のうちに金貯めとけよと言っておいた。

フレンチトーストみたいに全然甘くない思い出だが、行けるところまで行き、やれる事をやり、然るべき時に死のうってぼんやり思ったきっかけでもあるので、悪くない思い出でもある。
あなたにも素敵なフレンチトーストの思い出ありますか?